東京地方裁判所 昭和63年(ワ)17954号 判決 1991年1月29日
原告 管理組合法人 ロイヤルパレス
右代表者理事 田中正博
原告 加藤隆夫
右両名訴訟代理人弁護士 齋藤晴太郎
被告 株式会社 虎和
右代表者代表取締役 中野雪枝
右訴訟代理人弁護士 飯原一乗
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告は原告ら各自に対し、別紙物件目録一記載の駐車場について東京法務局大森出張所昭和五二年一月一八日受付第一六八八号の、同目録二記載の駐車場について同出張所同日受付第一六八七号の各所有権保存登記(本件各登記)の抹消登記手続をせよ。
二 被告は、原告ら各自に対し、別紙物件目録一、二記載の各駐車場(本件駐車場)を引き渡せ。
三 被告は、原告管理組合法人ロイヤルパレスに対し、金四〇九五万円及びこれに対する平成元年二月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告は、原告管理組合法人ロイヤルパレスに対し、昭和六三年一一月一日から本件駐車場の引渡しを完了するまで、月額金二二万五〇〇〇円の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、マンション「ロイヤルパレス」(本件マンション)の管理を行っている原告管理組合法人と右マンションの区分所有者である原告加藤隆夫が、右マンション内にある本件駐車場を占有、賃貸し、かつ、これについて本件各登記名義を有する被告に対し、本件駐車場は右マンションの規約共用部分であるとして(原告加藤は共有持分権に基づく保存行為として)、本件各登記の抹消登記手続及び本件駐車場の引渡しを求めるとともに、原告管理組合法人が被告に対し、不当利得として昭和四六年五月一日から昭和六三年一〇月末日まで被告が収受した本件駐車場の賃料合計四〇九五万円の返還と、昭和六三年一一月一日から本件駐車場引渡済みまで月額二二万五〇〇〇円の割合による賃料の支払を求める事案である。
一 争いのない事実
1 当事者について
原告管理組合法人は、昭和六三年七月二二日設立登記された本件マンションの区分所有権者を構成員とする建物の区分所有等に関する法律第四七条以下の管理組合法人である。
原告加藤は、昭和四六年八月三日、被告より本件マンション一〇階部分一〇〇三号室の専有部分の区分所有権を買い受けた者である。
被告は、本件マンション完成分譲当時中野建物株式会社と称していたが、昭和五一年七月一四日、商号を株式会社虎和と変更し、以後、昭和五八年一一月一日、これを株式会社襟懇舘と変更し、現在は株式会社虎和の商号である。
2 本件駐車場の状況
(一) 本件駐車場は、遅くとも本件マンション竣工後の昭和四六年五月一日以降、被告が本件マンションの区分所有者九名に賃貸し賃料を収受してきている。
(二) 本件駐車場については、被告名義の本件各登記がなされている。
二 争点
本件駐車場が、規約による共用部分か否かである。
第三争点に対する判断
一 本件マンション売買契約書について
1 事実
(一) ロイヤルパレス土地建物売買契約書第一条には「共用部分及び共用施設は本契約書末尾記載の目録の通り。」と記載され、その末尾の目録には「一、共用部分及び共用施設」として「ポーチ、ロビー……管理人室、その他駐車場及び専有部分に属しない建物の部分」と表示されている。
(二) 同契約書第四条には、灯油供給設備については特に共用設備から除外しているのに、駐車場についてはこのような規定がない。
2 判断
(一) 右(一)については、管理人室と駐車場の間に「その他」の文字が挿入され、かつ「管理人室」のあとわざわざ改行されて「その他 駐車場及び専有部分に属しない建物の部分」と記されていることからすれば、「に属しない部分」はその前の「駐車場及専有部分」を一体として受けるものとするのが合理的な読み方であると認められる(原告主張のように駐車場を共用部分であるとして表示するのであれば、「管理人室」までの列挙の中に記載するのが合理的である。)。
(二) 右(二)については、灯油供給設備が除外されているからといって、これとの対比において直ちに駐車場が専有部分ではなく共用部分であるということはできない。
(三) これらを総合して考えれば、右売買契約条項からは、本件駐車場を共用部分とする規約があったものと判断することはできない。
二 パンフレットについて
1 事実
(一) 本件マンション売買に際し交付されたパンフレットによれば、工事概要と称するページの中の一項目である設備欄にエレベーターと共に駐車場が挙げられている。
(二) また、同パンフレット一階平面図中には駐車場や駐車場出入りの案内図が示されており、またイラストの三箇所に自動車による出入りが示されている。
(三) 同パンフレット中管理費の記載中、ロビーとともに駐車場には管理費の記載がない。
2 判断
(一) パンフレットは、《証拠省略》のみならずパンフレットそれ自体からも生活の利便施設の説明の用に供することを目的として作成したものであり、権利関係を厳密に示す目的のものではないこと、右(一)については「工事概要」と表示されたページに記載されているに過ぎないこと、右(二)については単なるイメージ図であることから考えれば、これらをもって本件駐車場を共用部分としたものということはできない。
(二) また、本件駐車場の管理費について記載がないのは、本件マンション分譲当初から被告自身が管理したため特に明示する必要がなかったものと認められる。
(三) これらを総合して考えれば、右パンフレットの記載から本件駐車場が共用部分とされたと認めることはできない。
三 使用説明書「パレス」について
1 事実
(一) 使用説明書「パレス」の中に「(4)管理規約について」という項目が設けられ、規約についての説明がなされている。
(二) 右パレス(5)では、「共用施設は皆様の共有財産でございます。」と表示され、その後に「駐車場 賃貸借契約を結びますとご使用いたゞきますスペースが決定いたします。他の方々のスペースへの侵入、無断使用はできませんのでご注意下さい。」と記されている。
(三) 右「パレス」は本件マンションの分譲開始後に作成され、入居者に交付されたものであって、契約と同時に交付されたものではない。ただし、原告加藤においては、売買契約締結と同時に交付されている。
2 判断
(一) パレス(4)においては、管理規約についての説明がなされている。しかし、この説明は管理規約について一般的・抽象的に述べるにとどまっており、これをもって現実・具体的な規約が存在したと即断することはできない。
(二) パレス(5)の記載は一見、駐車場は区分所有者の共有に属するものと表示したものと見ることができる。しかし、同時に「駐車場」の説明には「賃貸契約を結びますとご使用いたゞきますスペースが決定いたします。」と記載されており、この記載と併せ考えれば、駐車場を「共用施設」の中に掲げたのは、誰でも賃貸契約を締結すれば利用することができるとの趣旨にすぎないとも解され、右記載をもって本件駐車場が規約共用部分とされたものと認めることはできない。
四 管理契約書について
1 事実
管理契約書第一条には「乙は甲の管理に係る左記物件を共同使用することが出来る。本件建物内 一、共用部分 一、共用施設」と記されている。
2 判断
しかし、右条項は共用部分とされたものの取扱について述べたものであり、本件ではまさに駐車場が「共用部分」に当たるか否かが問題とされているのであるから、右条項からは駐車場を共用部分と推認することはできない。
五 駐車場の敷地権について
1 事実
(一) 本件駐車場の敷地権として被告の有する持分は、登記上は二七・五二平方メートル。
(二) 本件駐車場の敷地権として有すべき持分は、区分所有権の客体である建物の専有面積を壁の内側面積を基準に計算すると三五・二五平方メートルになる。
他方、これを、壁芯面積を基準とし、かつ専有者の有する共用部分についての持分も加算したうえで算出すると、二七・二二平方メートルとなる。
(三) 本件マンションの売買契約書第一条によれば、建物専有部分と共に共用部分も明示されている。また、ここに表示された建物専有面積は壁芯によって算出されたものである。
2 判断
右(三)によれば、本件マンションの権利関係については、売買契約当時専有部分の面積が壁芯を基準に算出され、かつ建物共用部分も含めた割合で取り扱われていたことがうかがえる。そうすると、敷地権についても右権利関係を前提に算出することも合理性を有すると考えられ、これによれば、本件駐車場の敷地権は二七・二二平方メートルと求めることができる。
そして、本件登記上の本件駐車場の敷地権の数値である二七・五二平方メートルはこれと多少異なるものの、端数処理上の許容範囲内であるものと考えられるから、結局本件駐車場の敷地権を示す数値として妥当なものと認められる。
六 その他
1 事実
(一) 昭和六三年七月一〇日総会により改定される以前のロイヤルパレス自治会規約によれば、駐車場は専有部分として明示され、かつ総会における議決権を与えられ、管理費を支払う対象とされており、これが、右同日の総会において改定された。
また、被告は少なくとも昭和五九年四月分以降管理組合宛に駐車場の管理費を支払っている。
(二) 原告組合法人の前身である自治会は、昭和六三年二月ころ建物の修復を計画した際、被告に対しても総会招集の通知を発し、同年三月ころ被告に対し、右修復工事につき駐車場の内部立ち入り検査の了解を求めている。
(三) 本件駐車場の賃貸借契約書には、前文において、被告を甲、賃借人を乙としたうえで、「甲の所有する駐車場内に……」と明示されており、原告加藤は三回にわたり、これに異議なく署名捺印しており(乙六ないし八)、他の賃借人も本件マンション設立当初から同様の形式で賃貸借契約を締結してこれを利用してきた。
2 判断
以上の事実から見れば、原告管理組合法人の前身である管理組合及び原告加藤は、少なくとも昭和六三年七月一〇日の総会以前には、被告を本件駐車場の専有者と認めていたものと判断することができる。
七 結論
以上を総合して判断すれば、本件駐車場は被告の専有部分であり、規約共用部分と認めることはできない。
(裁判官 荒井勉)
<以下省略>